とある美術教師の制作日記

絵の制作や教育のことなんかのつぶやき

半人前の靴


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今日は、ラスト1件の家庭訪問が入るかもしれなかったので革靴で通勤した。

結局入らなかった。

 

学期中は、毎日革靴でシャツにスラックスだが、暑いので夏休み中は、学校のポロシャツにUNIQLOの涼しいスラックスだ。

この革靴は5年ほど前に講師をしている時に購入した。

僕はよく歩く方で、靴底をすり減らし、すぐに靴をダメにしてしまう。どれくらい歩くかというと、授業が多い日は体重が1.5キロ~2キロほどやせる(革靴でやるわけじゃないけど)くらいだ。

 

10000円くらいの革靴を買ったことはあったが、半年から1年でダメにするので、そのうち、3、4000円くらいの合革の靴を履くようになっていた。

そんな5年前に、NHKの72時間というドキュメンタリー番組で靴磨き屋の話を見た。

道端の靴磨きは、今のご時世に合わない(高度経済成長期までイメージで)物好きな人が、気取ってしてもらうものだと思っていた。

しかし、実際のお客さんは、大きな商談の前に覚悟を決めるために磨きに来たとか、昔、就職した時に親に革靴を買ってもらったが仕事が上手く行かず、地方に飛ばされ、力をつけて戻って来て、改めて靴を出し、磨いて履くとか、思いの籠った行動をしている人がいるのだと知った。

また、靴は5万円以上の物が良く、それを手入れしながら20年、30年でも履き続け、味を出して行くものと知った。

その話を見て、自分が安物の靴を履き潰しているのが恥ずかしくなった。また、靴への男の覚悟が羨ましくなった。(その覚悟があると採用試験も通ると考えてもいたかもしれない)

 

うちは小遣い制で画材や本、コンクールの出品料なんかにお金を使うので、5万円を靴にかけるのはかなり痛いが、なけなしのお金を集めて、デパートに買いに行くことにした。

男性物の靴専門店に行き、女性の店員に、かかとを交換できるなど、長持ちするものがほしいと話し、革靴コーナーに案内してもらった。

靴のサイズを見ながら色々履いて試すのだが、2万円程度の靴しかない。どこを見てもその棚には2万円台の靴しかない。

心の中で何で、「5万円の靴を買いに来たのになんで!」と叫んでいた。

その時、ふと気づいた。

これは女性店員に値踏みをされたんじゃないかと。

このお客さんは2万5000円の靴を買うのが精一杯だと。

5万円くらいの売場に案内してもらっても良かったが、僕はそれを受け入れた。

今はそれが自分の価値だと。ちょうど半分の価格、ちょうど半人前。

ひと回り大きくなったら、5万円以上の靴が似合うようになったら、また買いに来ようと心に誓った。

 

もちろん、生徒にそのドキュメンタリーを見せて、靴を買う話もして、笑いを取った。

その時の革靴を時々自分で手入れをしたり、時には靴磨き屋でメンテナンスしながら今も大事に使っている。

2万5000円でも十分、丈夫で綺麗だ。

5万円の靴を買いに行っても良いが、やはり高くて手が出ない。

まだ半人前ということなのか。

コンクールで大きな賞でも取ったら買いに行くけどな。