とある美術教師の制作日記

絵の制作や教育のことなんかのつぶやき

消えたカメの話

ふと、教室を見ていて大学時代のことを思い出したのでそのことを生徒に話した。

 

大学4年生の時だったか、隣の教室(アトリエ)にカメの絵を描く女性の大学院生がいた。

美術では学年が上がると教室に個人の制作をするスペースをもらえる。

特に大学院生になると、1部屋を4人とかで、分けて使うようになる。

その先輩はカメを7匹飼っており、彼氏の家で飼っていた。

で、彼氏と別れたようで、カメの入った水槽(オケ)をアトリエに置くようになった。

つまりは教室(アトリエ)で飼い始めた。

 

その女性の先輩はいい加減な人で、カメをほったらかす。

カメも1匹あたり25cmくらいの大物である。それが7匹もいる。

亀はかった人はわかるかもしれないが、放っておくとトイレのせいなのか、

食事カスのせいなのか、張ってある水が臭くなる。

しかも壊滅的に。

さすがに夏のある昼間に臭さがひどくて耐えられず(天井あたりの壁は繋がっていた?)、隣の教室に行ってみた。

するとカメの大きなオケは、窓際に置かれた机の上に乗せられ、窓が開き、カーテンがそよいでいた。

ちなみに洋画のアトリエは4階だ。

で、窓際にあるそのオケに近づき、覗いてみた。

 

すると、なんと1匹もいない。

おかしいなぁと思い、周りを見渡した。

周りにあるのは風にそよぐ、カーテンだけである。

とっさに僕の中に不安がよぎった。

まさか、カメが、オケをよじ登り、窓から落ちてしまったのではないかと。

窓の下にはカメの惨劇が広がっているではないかと恐怖した。

僕は気持ちを切り替え、恐る恐る、窓から下の様子を伺った。

「・・・・・・・・・・・・・」

しかし、地面にはカメの跡形は見られなかった。

ひとまず、安堵した。

でも、どこに行ったかなぁと教室を見渡してもいない。

まさか、と思って上を見上げた。

そう、カメたちはカーテンの上のつけ根の部分に、7匹がびっしりと張り付いていた。

やっぱりカメも爬虫類なので、トカゲのようにオケに近づいたカーテンを爪で引っ掛け、よじ登っていたのだ。

人生で初めて見た衝撃的な光景だった。

そのあと、どうしたかは覚えていない。

 

現代に戻って、壁掛けの扇風機用の高い位置のコンセントに

タブレットパソコンのアダプターを接続した状態であり、

高い位置に黒い大きな塊がある姿がなんとなく、

大学時代のカーテンによじ登った亀に見えた。

 

その事件の話を生徒にした。生徒達も驚いた様子だった。

どうなったんだろう、そのカメ。その後の記憶がない。